今回のREACH 制限物質(その68)は、Entry68のC9-C14 linear and/or branched perfluorocarboxylic acids (C9-C14 PFCAs), their salts and C9-C14 PFCAs-related substances, perfluorononan-1-oic acid (PFNA); nonadecafluorodecanoic acid (PFDA); henicosafluoroundecanoic acid (PFUnDA); tricosafluorododecanoic acid (PFDoDA); pentacosafluorotridecanoic acid (PFTrDA); heptacosafluorotetradecanoic acid (PFTDA); including their salts and precursorsです。
長い、長すぎる!!
これらの物質は、炭素数が9から14の直鎖及びまたは分岐した全部の水素がフッ素に置き換わったカルボン酸、その塩及び関連物質、perfluorononan-1-oic acid (PFNA); nonadecafluorodecanoic acid (PFDA); henicosafluoroundecanoic acid (PFUnDA); tricosafluorododecanoic acid (PFDoDA); pentacosafluorotridecanoic acid (PFTrDA); heptacosafluorotetradecanoic acid (PFTDA);それらの塩と前駆体を含む、です。
なんのこっちゃ。
Entry68の基本情報
Entry68は、展開すると6つの物質が出てきます。ところが、これらの物質は、カルボン酸の形で書いてあります。Entry名で書いてあるところのPFNAなどの略号に当たる物質そのものです。
以下に列記します。
化学物質名:Tricosafluorododecanoic acid
和名:トリコサフルオロドデカン酸
別名:パーフルオロラウリン酸、Tricosafluorolauric Acid
CAS RN: 307-55-1
EC No.: 206-203-2
化学式:C12HF23O2
構造式:
分子量:614.10
化学物質名:Nonadecafluorodecanoic acid
和名:ノナデカフルオロデカン酸
別名:パーフルオロデカン酸、Perfluorodecanoic Acid
CAS RN: 335-76-2
EC No.: 206-400-3
化学式:C10HF19O2
構造式:
分子量:514.08
化学物質名:Pentacosafluorotridecanoic acid
和名:ペンタコサフルオロトリデカン酸
CAS RN: 72629-94-8
EC No.: 276-745-2
化学式:C13HF25O2
構造式:
分子量:664.11
化学物質名:Heptacosafluorotetradecanoic acid
和名:ヘプタコサフルオロテトラデカン酸
CAS RN: 376-06-7
EC No.: 206-803-4
化学式:C14HF27O2
構造式:
分子量:714.11
化学物質名:Henicosafluoroundecanoic acid
和名:ヘニコサフルオロウンデカン酸
CAS RN: 2058-94-8
EC No.: 218-165-4
化学式:C11HF21O2
分子量:564.10
化学物質名:Perfluorononan-1-oic acid
和名:へプタデカフルオロノナン酸
CAS RN: 375-95-1
EC No.: 206-801-3
化学式:C9HF17O2
構造式:
分子量:464.08
以上の6つのカルボン酸が書かれているのですが、制限物質の範囲は、これらのその塩及び関連物質も含むことになります。
Entry68の危険性は何か
展開されている6つのカルボン酸は、いずれもSVHCになっています。
これらの中で、Perfluorononan-1-oic acidとNonadecafluorodecanoic acidについては、Toxic for reproduction (Article 57c)(生殖毒性)とPBT(Article 57d)(難分解性、生体蓄積性、有毒性)がその理由になっており、残りの物質は、vPvB (Article 57e)(非常に難分解性で、非常に生物蓄積性が高い)が理由になっています。
また各種刺激性も書かれています。
Entry68 はどこに使われているのか
NITEのCHRIPなどを見ても、その他のサイトを見てもこれらの物質の用途は、フッ素系の界面活性剤ということになっています。
フッ素系の界面活性剤は、何に入っているかって?管理人、あんまり知らないです。
このような多数のフッ素で置換された直鎖炭化水素系の化合物は、界面活性剤として良く利用されてきましたが、ごく少量でも効果を発揮するためどこに入っているのか、サプライチェーン上で追いにくいという傾向があります。
このあたりの話は、製品化学物質管理における経験や事例(その3)とそこからリンクされている記事で、知ることができると思います。
制限条件
Entry68の制限条件は、以下の通りです。
- 2023 年 2 月 25 日以降、単独で物質として製造、上市してはならない。
- 2023 年 2 月 25 日以降、以下の用途で使用、または上市してはならない。
(a)他の物質、構成要素として。
(b) 混合物
(c) 成形品
ただし、物質、混合物、成形品中の濃度が、C9-C14 PFCAs とその塩の合計で 25ppb 未満、または C9-C14 PFCA 関連物質の合計で 260ppb 未満である場合は、この限りでない。 - 第2項の例外として、C9-C14 PFCAs、その塩およびC9-C14 PFCA関連物質の合計について、輸送される単離中間体として使用する物質中に存在する場合、濃度制限は10 ppmとする。ただし、パーフルオロ炭素鎖長が6原子と同じか短いフッ素化学物質の製造については、本規則第18条第4項の(a)~(f)の条件に合致していることが条件とする。
欧州委員会は、2023年8月25日までにこの制限を見直すものとする。 - 第2項は、2023年7月4日から以下のものに適用される。
(i) 危険な液体から労働者を保護するための撥水撥油のための繊維製品。
(ii) 以下のものを製造するためのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の製造。
-高性能・耐腐食性ガスフィルター膜、水フィルター膜、医療用繊維膜
-産業用廃熱交換器
-揮発性有機化合物の漏出、PM2,5微粒子の漏出を防止するための工業用シール材 - 第 2項の適用除外として、C9-C14 PFCA 類、その塩、及び C9-C14 PFCA 類関連物質の使用を 2025年7月4 日まで認める。
(i) 半導体製造におけるフォトリソグラフィーまたはエッチング工程。
(ii) フィルムに塗布される写真用コーティング剤。
(iii) 侵襲型および埋め込み型医療機器。
(iv) 液体燃料の蒸気抑制および液体燃料火災(クラス B 火災)用の泡消火剤。
移動式と固定式の両方を含むシステムに既に設置されているもので、以下の条件を満たすもの。
– C9-C14 PFCAs、その塩および C9-C14 PFCA 関連物質を含む、または含む可能性のある泡消火剤は、訓練に使用し てはならない。
– C9-C14 PFCA、その塩、および C9-C14 PFCA 関連物質を含む、または含む可能性のある泡消火器 は、すべての放出が抑制されていない限り、試験に用いてはならない。
– 2023 年 1 月 1 日以降、C9-C14 PFCA 類、その塩、および C9-C14 PFCA 類縁物質を含む、または含む可能性のある泡消火器 の使用は、すべての放出が抑制できる場所でのみ許可されるものとする。
-C9-C14 PFCAs、その塩、および C9-C14 PFCA 関連物質を含む、または含む可能性のある泡消火剤の備蓄は、規則(EU) 2019/1021の第5条に従って管理しなければならない。 - 第2項(c)は、2023年2月25日以前に上市された物品には適用されないものとする。
- 第 2 項は、2028 年 8 月 25 日までは、加圧式定量吸入器の缶コーティングには適用されない。
- 第 2 項(c)は、2023 年 12 月 31 日から以下のものに適用されるものとする。
(a) 半導体単体。
(b) 半完成品及び完成品電子機器に組み込まれた半導体。 - 第2項(c)は、2023年12月31日までに上市された完成電子機器の予備品又は交換部品に使用される半導体に2030年12月31日から適用されるものとする。
- 2024年8月25日まで、第2項の濃度限界は、パーフルオロアルコキシ基を有するフッ素樹脂及びフッ素エラストマー中の C9-C14 PFCAsの合計で2000ppbとする。
2024 年 8 月 26 日以降は、パーフルオロアルコキシ基を有するフッ素樹脂およびフッ素エラストマー中の C9-C14 PFCAs の合計について100ppbを濃度上限とする。
パーフルオロアルコキシ基を有するフッ素樹脂およびフッ素エラストマーの製造と使用においてすべてのC9-C14 PFCAの排出を回避しなければならない、もしそれが不可能な場合は、技術的かつ実際的に可能な限り低減しなければならない。
この例外措置は、第2項(c)に言及された成形品には適用されないものとする。
欧州委員会は、2024年8月25日までに本例外規定の見直しを行うものとする。 - 第2項における、電離放射線照射または熱分解により製造されたPTFEマイクロパウダー、およびPTFEマイクロパウダーを含む工業用および業務用混合物および成形品に含まれるC9-C14 PFCAsの合計の第2項の濃度限界は1 000ppbでなければならない。
PTFEマイクロパウダーの製造と使用におけるC9-C14 PFCAの全ての排出を回避し、不可能な場合は、技術的かつ実際的に可能な限り削減しなければならない。
欧州委員会は、2024年8月25日までに本例外規定を見直すものとする。 - 本項目において、C9-C14 PFCA 関連物質とは、その分子構造から C9-C14 PFCA に分解または変換される可能性があると考えられる物質をいう。
ということで、やたらと例外規定の多い制限条件になっています。これは、とりもなおさずこのような物質が現代社会に利便性をもたらしているという証になっています。
危険性がある物質なのでもちろん管理コントロールはしなければならないのですが、一概に全面禁止にしてしまうと現時点では社会システム上影響が大きすぎるということになります。
コメント
還暦環境調査員です。
PFCAs C9-C14 一通り調査完了したところ8月末ころからMCCPと長鎖PFCAs C15-C21とその塩及び
関連物質含有有無調査が、毎日のように依頼が来ています。(経済産業省が出処)
車載部品 民生部品関係ないようです。
また沼に入っていくのでしょうか・・
すいません。私のコメントは「愚痴」ばかりです。
還暦環境調査員様、コメントありがとうございます。管理人です。
返事が少し遅くなってしまいました。
MCCPと長鎖PFCAs C15-C21とその塩及び関連物質含有有無調査が始まっているのですね。
経済産業省のものは、POPs条約におけるPOPRC18があったために、そこが調査の期限で行われたようですね。
とは言っても、それ以降でもわかったら教えてね状態になっています。
今後のPOPs条約においてどちらにしろ取り上げられる物質ですので、少しづつでも調査を進めたほうがいいかもしれません。